「アート+コム/ライゾマティクスリサーチ 光と動きの『ポエティクス/ストラクチャー』」展のために制作された新作。

無線制御と光学式トラッキング技術によって自走する、側面を鏡で覆われた5つの直方体が空間内を移動している。直進したり回転したり、同期して動く様子はさながらどこかダンスを思わせる。

空間全体をカバーするプロジェクターからの映像は、床面に直接投影されている部分と、オブジェの鏡面に反射して床面に投影されている部分がある。カートが移動や回転することで、プロジェクターからの映像に対する鏡の角度や距離は常に変化しているにも関わらず、床面では両者の映像は常に正しく歪みのない像として投影され続けている。

この作品は、アナモルフォーズ(歪像画)と呼ばれる、15世紀から用いられている、あるひとつの視点、角度からのみ正しい像を得られることができるように元の像を歪めて描く技法をモチーフとして制作されている。それは、ある角度から見ると平面であるはずの画像が、擬似的に立体的に見える、というトリックアートなどでよく知られている。

ライゾマティクスリサーチは、パフォーマンスなどにおいて、会場を撮影するカメラの視点を、コンピュータ・グラフィックスにおけるヴァーチュアルなカメラの視点と同位置に設定し、それに応じてCGの映像をリアルタイムに変形させることによって、カメラで撮影された映像では奥行きを持っているかのように見せるという、合成やヘッドマウント・ディスプレイによらずに、見かけ上、被写体が映像の中に入り込んでいるように見える映像演出を行なっている。

この作品では、モーションキャプチャーカメラによってカートの動きがトラッキングされ、そこから鏡の角度を解析し、その鏡の角度に対して、反射像が正しい像として投影されるように、リアルタイムで歪んだ像を生成し、カートの鏡面に投影している。そして、複数の鏡面によって断片に分断されて、さらに、RGBの光の要素によって分割され、レイヤー化された映像が、カートの動きによって構造的に統合されている。


Credits

コンセプト/プログラミング:真鍋大度
コンセプト/テクニカル・ディレクション:石橋素
サウンド:黒瀧節也
ハードウェア:田井秀昭
ソフトウェア:花井裕也
テクニカル・サポート:原田克彦、石川紗季、西本桃子