Brain Processing Unit
- 生命とコンピューターが融合する未来 -
Work 3

生命とリズム

人はなぜ音楽を聴くと思わず体を揺らすのか。この普遍的な人間の反応の起源を、最も基礎的な生命の単位である神経細胞レベルから探求します。

私たちの身体は、意識することなく常にリズムを刻んでいます。心臓の鼓動、脳波の同期、呼吸のリズム——これらの生命活動は、すべて自発的な周期性を持っています。このプロジェクトでは、脳オルガノイドを用いて、生命が持つこの根源的なリズム性と、外部からのリズミカルな音楽的刺激への反応の関係性を探ります。

  • 2025
  • 脳オルガノイド、電気刺激装置、ソフトウェア、スピーカー、ディスプレイ

解説

本展示では、脳オルガノイドのリズム認識と生成メカニズムを探究する実験過程を提示します。

実験では、リズムパターンを電気信号として脳オルガノイドに与え、脳オルガノイドの応答と自発的な活動を観察します。1分間のサイクルの前半30秒では、定期的な電気刺激によってリズムパターンを入力し、後半30秒では刺激を停止して脳オルガノイドの自律的な活動を記録します。

脳オルガノイドの活動は特徴的なパターンを形成し、これらはリアルタイムで可視化されるとともに音響信号へと変換されます。与えられたリズムに対する脳オルガノイドの応答と、その後の自発的な活動変化を継続的に観察し、また聴くことにより、生命システムにおけるリズムの学習と生成過程を提示します。

さらに新たな試みとして、脳オルガノイドの応答結果を入力(電気刺激)へフィードバックする実験を行います。具体的には、現在の「MIDIドラムパターン(シーケンスデータ)→電気刺激→反応(観察)」に「反応→MIDIドラムパターンに再変換→(遅延)→電気刺激」の処理を加え、先のシーケンスデータによる電気刺激を行う場所とは離れた位置に電気刺激を行います。遅延については、脳オルガノイド内部での処理を伴わない、電気的なフィードバック(発振)を避けるために挿入します。

このループにより、神経細胞は自身の生成したリズムを認識し、それを基に新たなリズムパターンを生成するという循環的な過程が生まれます。これは、人工知能分野でいうところのリカレントニューラルネットワーク(RNN)に似た構造を持ちますが、生体神経回路ならではの非線形な相互作用とノイズにより、より複雑で予測不可能な振る舞いを示します。

この実験の背景には、人類がこのような高等知能を有するに至った理由の一つが「自分がしゃべった言葉と他人から聴いた言葉を同等に扱えるようになった」ことにあるという知見があります。信じがたいかもしれませんが、それ以前の人類は「自分が何を言ったか自分では聴き取れない」という脳の構造だったとされています。今回、自分(脳オルガノイド)の行動(ドラムを鳴らす)を、自身が再認識するフィードバックループがどのようなふるまいとなるのか、興味をもって観察していきます。

技術詳細

ハードウェア

  • MacBookPro
    • 刺激パターン変換
    • リズムパターン変換
    • サウンド生成
    • 可視化
  • サーバー (API)
    • 刺激コマンド生成
    • 前処理
  • 高密度微小電極アレイシステム
  • 脳オルガノイド (2個連結)
  • GPU サーバー
    • 可視化
    • レンダリング
  • ハードウェアデコーダー
  • スピーカー
  • ディスプレイ 55インチ ×2

システム構成図

スクリーンキャプチャ

フィードバックモード

生成モード

訓練モード